私は、「署名は任して。お店を頼む。頑張って!」と電話を切ると通りがかった看護婦に砒素中毒患者の病棟を聞き、娘と荷物をかかえ足の向くまま行き着いたのが、二階二十七号室。手前の廊下から待合用の長椅子二本を引張り込み、ベッドを作りそのまま入院患者となった。混雑で通院患者とも知らぬ看護婦さんは、長椅子で気の毒だと布団を余分に運んで下さり、いつの間にかカルテも出来、注射も打って下さり、先生の回診も皆と同様であった。同室の方に「心配で勝手に入院した。よろしくお願いします。」と頼むと「よく来られた」と皆親切であった。
私は今になって思う。あの時医者の指示通り通院して充分な手当てが受けられなかったら…と。現在被害者の中で当時の重症者が行き届いた治療で今は軽く、当時の中・軽症者の治療がずさんで後遺症の重い人がある。
主人の「強引に入院せよ。絶対帰るな!」の電話はすでにこの事件の本質を見通し、娘を重い後遺症から救ってくれた。私も娘も主人のこの一声に心から感謝している。
